「会社離れ」できない社長

「会社離れ」できない社長

お金は貯めるより使う方が難しいといいますが、私も同感です。

個人の支出に限りません。会社にとってもお金の使い道は悩ましい問題です。内部留保にするのか、投資にまわすのか…。

そういえば、日本の会社は内部留保が多すぎると某大臣が文句を言っていましたが、ここからは、ある中小企業のお話をしたいと思います。

同社は創業10年、創業期のメンバーが一生懸命頑張って商品を売り、お金も十分貯まりました。いよいよ成長期に入るタイミングを迎えたわけですが、残念なことに社長がマインドチェンジできません。

お金を投資に回さず、しかも、レバレッジをきかせるべく追加した借入金までも預金に置きっぱなし。コロナ禍ということもありましたが、事業にも人材にもお金をかけることを渋り、守銭奴と化したのです。

早い話が、その社長は1回目の「収穫」を終えた段階で満足してしまい、2回目の「収穫」に向けた種まきを止めてしまったのです。

ここが、同社がこの先さらに成長するかしないかの重要な分岐点でした。

このタイミングで、何にいくら投資するのかを的確に決められるかどうかが、その後の社運を決定づけます。但し、その際、とても大切なことがあります。それは、併せて「将来のビジョン」も描く事です。

的確な投資を選び取る為には、その会社がどこに向かい、何を成し遂げたいのかを明確にしておかなければなりません。なぜなら、投資はあくまで手段であり目的ではないからです。

残念ながら、その社長は将来展望を描くことなく、縮小均衡路線に舵をきり、コストカット、給与カットに邁進しはじめました。

コロナ禍という不測の事態があったとはいえ、P/L B/Sを見る限り、ここで縮小均衡はあり得ないと思ったのですが…。

結局、コストカットをしつつも、ビジョンなき「思いつき投資」をしてしまい散財するという結果に。愛想をつかした人材は多くが流出し、ブランド価値も大きく棄損するという末路をたどりました。

人間でも「成長期」を向かえれば、食費だけでなく教育費や服飾費、時に娯楽費など様々な「投資」が必要です。将来の夢やビジョンを持つことも欠かせません。法人も全く同じでしょう。成長期に「投資」を渋っていては、成長は期待できません。

しかしながら、社長としては自分の手中にあった会社が「成長期」を迎え、やがては「親離れ」するという展開が受け入れがたいということのようです。

子供の成長を真に願う親は、子供を我が意のままにコントロールしたりはしません。それと同じで会社(法人)の成長を真に願う社長であれば、法人の人格を尊重しつつも、その成長を見守り、必要な投資を決断してゆくべきです。

「会社離れ」できない社長に率いられた法人は、「子離れ」できない親に管理された子供と同じです。将来の成長や発展は望むべくもありません。