情報の取り扱い

情報の取り扱い

「人の口に戸板は立てられない」と言いますが、まったくその通り。情報の取り扱いには細心の注意を払いませんと、あっというまに広がってゆきます。

「ここだけの話にしておいて下さい」と言って、信頼のおける人物に伝えた情報は、そこで留まりません。その人が今度は別の人物に「ここだけの話にしておいて下さい」と断って話してしまうからです。

人事異動の情報などは、ひとたびリークしますとかなりのスピードで伝播します。出世が絡んでいたり、転居を伴う場合があったり、とにかく皆の関心が高いからです。

もちろん、M&Aのような最高機密に属する情報はさすがに洩れません。関与する人は誓約書に署名をしていますので、リークすれば自分の首が飛んでしまうからです。

しかし、日々事業を運営する中で、いちいち誓約書を書いてもらうわけにはゆきません。そこは、同じ会社に属するもの同士の信頼関係を前提に機密情報のやりとりがなされます。

ところで、以前に私が勤めていた職場で、この前提となるべき信頼関係が崩れ、洩れてはならない機密情報が中途半端な形でリークしてしまったことがあります。

それは事業を縮小するという類の話で、スタッフの雇用にも当然影響する非常にセンシティブな情報でした。経営サイドとしては、そうした対応策も含めた全体像を、トップが自ら言葉を尽くしてスタッフにきちんと説明すべく準備を進めていたところだったのです。

ところが、その準備に関与していた幹部の一人が、あろうことか内容を部分的にリークしてしまった。しかも、それはいつの間にか「全員解雇」という話に歪曲されて、社内を駆け巡りました。

不安に駆られた現場スタッフが声を荒げて事務室に怒鳴りこんできたり、外部の労働組合が入り込んできたりで職場は大混乱。それからというもの、私は情報の取り扱いに関しては「石橋を叩いて渡る」ようになりました。