ロンドンに駐在していたのは今から15年以上前。職場まで地下鉄で通っていました。
Tube(チューブ)という愛称で呼ばれるこの地下鉄に乗ると、まさにチューブ(=筒・管)のように狭くて細長いトンネルを走っているという感じです。
車両も小さくて丸びを帯びているので、両サイドは天井が低く、混雑時にはドア付近で背の高い男性が、窮屈そうに背中を丸めている光景をよく目にしました。
運転見合わせや駅の閉鎖は日常茶飯事、ダイヤの乱れは当たり前で、駅の設備や清潔さ、サービスレベルなどは東京の地下鉄とは比べ物になりません。「レべチ」です。
しかし一方で、素晴らしい!と思うのは、とにかく「シンプルでわかりやすい」ことです。
例えば、駅の案内表示。次の電車がいつ来るのかという電光掲示板が違います。東京では ほとんどの駅で
- 【先発 荻窪 15:32】
- 【次発 荻窪 15:39】
というぐあいに行先と「発車時刻」が表示されます。数字が多いうえに、現在時刻も確認しなければならず、目をキョロキョロさせてしまいます。
一方、ロンドンでは
- 【1.STRATFORD 2mins】
- 【2.STRATFORD 9mins】
というかたちで、「あと何分で電車が発車するか」という表示で、その数字がカウントダウンされるのです。これなら必要な情報がパッとみて瞬時に入手できます。
先週水曜日の読売新聞で、『列車の時刻案内がこれまでの「絶対時刻」から「相対時間」に移行している』という記事を読みました。
この用語をお借りするなら、ロンドンではずいぶん前から「相対時間」表示だったというわけですね。
次に駅員による「肉声」アナウンス。これが全くありません。最近は東京でも少なくなっているようですが、それでも朝夕のラッシュ時は、正直申し上げて耳障りです。自動音声によるアナウンスがあるのに、全く同じ内容を肉声でリピートする意味がわかりません。
しかも、「間もなく発車します!」「このあたりで、ドアを閉めさせていただきます!」「駆け込み乗車はおやめください」といったメッセージは、逆効果も甚だしいでしょう。
なぜなら、このアナウンスはホームに向かって階段を下りている人々の心に火をつけるからです。ホームの様子は見えないけど、この余計なアナウンスのおかげで「走れば間に合う!」とわかってしまう。かえって駆け込み乗車を助長しているのではないでしょうか。
シドニーに駐在していた時も電車通勤していましたが、駅の肉声アナウンスは皆無。発車時刻になるとベルも鳴らず、車掌か駅員かが突然「ピーッ」と短く笛を吹いたと思ったらドアが閉まります。
これだと、いつドアが閉まるかわからないので、腰が引ける感じで、駆け込み乗車もちょっと怖いのです。
ドアが閉まるタイミングがわかるから駆け込めるのだということを、私はこのとき理解しました。わからないと、逆に尻込みしてしまう。これは私の偽らざる実感です。
もちろん、人それぞれ個人差があるでしょうけれど、私は駅が目にも耳にも、もう少しやさしい場所になることを願ってやみません。