営業のスタイル

営業のスタイル

夜7時過ぎ、自宅近くの歯科医院の前を通ったときのこと。ダークスーツに身を包んだ営業マンらしき男性4人が、患者がひけた待合室で一人の医師を囲んで話をしていました。

医療機器メーカーでしょうか、上司と技術者を引き連れて、新製品の売り込みに来たという雰囲気です。4人も来るということは結構大きな取引なのかもしれません。

それにしても、町の小さな歯科医院に大勢で訪問するという、いかにも日本らしい営業の光景です。

得意先に頻繁に顔を出して名前を覚えてもらい、人間関係を築いてゆく。商品を売り込む前にまず自分を売り込め!と上司から葉っぱをかけられる。脚で稼げ!と自分の靴の踵がいかにすり減っているかを勲章のように自慢する先輩がいる…。

かつては、そのような営業スタイルが当たり前でしたが、やはり令和の時代には違和感があります。いわゆる「昭和の営業」であり、若い世代はついてゆけないでしょう。

それでも、この種のスタイルはまだまだ根強く残っているのではなかろうかと、4人の男達に囲まれ小さな椅子に腰かけて手元の資料に目を通している歯科医の姿を見ながら思いました。

私が20年以上前に駐在していたドイツでは、その営業スタイルは全く異なるものでした。

当時は日本でも平成の世にはなっていましたが「昭和の営業」がまだまだ健在。ドイツでもてっきり日本と同じようなスタイルだろうと思っていたのですが予想は大ハズレでした。

「なぜ日本では用事もないのに得意先を訪問するのか?かえって迷惑ではないか?」とドイツ人の営業スタッフに笑われる始末。

彼らはもっとずっと合理的に動くスタイル。売上の大きい店により多くの時間を割くといったコンセプトをしっかり持った上で、計画的に営業活動を進めていました。

ドイツが進んでいて、日本が遅れているということを言いたいのではありません。顧客のニーズが異なるということなのです。

日本では、「忙しいのにわざわざ立ち寄ってありがとう」と、ご機嫌お伺いの訪問を歓迎してくれますし、それを評価もしてくれます。

しかしながらドイツでは、「用事もないのに、なぜ来るのか」と、訝しがられるのがオチということです。

ウエットな関係を好む日本の顧客と、ドライな関係を好むドイツ。さすがに今は日本の顧客もかなりドライで合理的になっていますが、当時は双方のコントラストは強烈でとても印象的でした。