ご存知のように、会社に雇われた従業員は毎年健康診断を受けることができます。労働安全衛生法という法律により、会社は従業員に受診させる義務があるからです。
私もその恩恵を長きに渡り享受してきました。本当にありがたい話です。海外赴任中や一定の年齢に到達した以降は「人間ドック」も全て会社の負担で受けることができました。
基本的に日本では「社員は家族」といった意識が強いので、こうした法律が整備され、社員も当たり前のように自分の健康管理を会社にゆだねてきたのだと思います。
しかし、本来自分の健康管理は自分でするもの。一方で、会社の手厚い福利厚生が「自分の健康管理は会社がするもの」という考えの人を、少なからず生んでいるのも事実ではないでしょうか。
このことは、納税や社会保障費に関しても同じこと。「住民税は高いか安いか」でも書きましたように、会社が全て対応してくれるため、自ずと無関心になってしまいます。
健康診断の結果が悪かったので、会社から再検査や医療機関の受診を指示されると、「何でこの忙しいのにそんな面倒なことをやらせるんだ」と文句を言いだす人がいました。
「いったい誰のためだと思っているのですか?あなた自身のために申し上げているのですよ!」と産業医の先生や看護師さんに叱責されている人たちです。
日本の会社は健康管理にせよ、税金の計算にせよ、本来個人の責任で対応すべきことを、あまりに手厚くサポートしすぎてきたのかもしれません。
今回のコロナ禍でも、行政当局への批判が強いのは、背景にそうした過保護により甘やかされている現状があるからかもしれません。
なんでもかんでも手取り足取り当局が対応してくれるだろうというスタンス。自己の努力義務は棚上げし、感染したら当局の予防策がなってないと言い出す人が少なからずいます。
ところで、私のかつての同僚に米国人女性がいました。30年も前の話です。外国人と机を並べて働くことになった私は、「さすが日本の老舗企業でありながら、グローバル化を標榜するだけのことはあるなぁ」と誇らしく思っていました。
その彼女が、会社の健康診断を非常に毛嫌いしていたことを思い出しました。「なぜ、どこも具合の悪いところがないのに検査を受ける必要があるのか?全く理解できない」と。
ここには米国人と日本人の基本的な考え方の相違が如実に表れています。前者は自分の健康管理は自分の責任でする。だから「会社はプライバシーに踏み込まないでくれ」です。
後者は会社にお任せ。その代わり健康診断のデータという「個人情報は全て開示しますのでよろしく」です。
どちらが良いか悪いか、なんとも言えませんが…。