指揮官たちの特攻(城山三郎 著)

指揮官たちの特攻(城山三郎 著)

これほど私の目頭を熱くさせた作品はありません。もう、かれこれ5回は読み返しているでしょうか。あの戦争を生きた若き二人の青年将校の人生が淡々と描かれています。

神風特別攻撃隊第一号に選ばれ、レイテ沖に散った関行男大尉。敗戦を知らされないまま、玉音放送後に「最後」の特攻隊員として沖縄へ飛び立った中津留達雄大尉。すでに結婚をして家庭の幸せもつかんでいた青年指揮官たちは、その時をいかにして迎えたのか。海軍兵学校の同期生であった二人の人生を対比させながら、戦争と人間を描いた哀切のドキュメントノベル。城山文学の集大成。

新潮社ホームページより

最前線のエリートたちが、現在から見れば狂気の沙汰にしか映らない「特攻」という作戦とどう向き合っていたのか。それを見守る家族はどんな思いを胸中に抱いていたのか。

ご自身も従軍経験をお持ちの城山氏による、精緻な取材と分析に基づき紡ぎ出された物語は、深く静かに私の心を打ち続けました。

ところで、昨年8月に同氏の翻訳による「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙(G.キングスレイ ウォード著)」を紹介した際にも述べましたが、「落日燃ゆ」「男子の本懐」等々、私も城山文学に夢中になっていた時期があります。

当時は海外ビジネスに憧れていたこともあり「真昼のワンマン・オフィス」という作品も印象に残っています。

10年ほど前に「永遠の0」(百田尚樹著)という小説が話題になりました。私も読んでみたのですが、20年以上前に出版されていた「指揮官たちの特攻」にソックリなので驚きました。盗作という批判も持ち上がったようですが、私に言わせれば「リメイク」という印象です。

道義的な問題は一旦措くとして、戦争の物語はどんな形であれ世代を超えて語り継がれてゆかねばなりません。同じ過ちを繰り返さないためです。

私にとって経済小説のイメージが強かった城山氏ですが、同氏の戦争文学もまた大変すばらしい。近い将来、この作品が再び何らかの形で「リメイク」されて世に出ることがあるのではないかとひそかに期待しています。(新潮社)