「鬼上司」に感謝

「鬼上司」に感謝

出張は用件にもよりますが私にとって楽しいものでした。地方の事業所に配属されていた頃は、たまに出張で東京に行けるのが嬉しい、行先が海外ともなれば、それはもう人生における一大イベント。

あれは確か入社3年目。私は購買部門で果汁原料の調達を担当していました。上司はイタリア(ローマ)に駐在経験のある一風変わった人で「仕事の鬼」。無理難題が絶え間なく降りて来て、同僚ともども何度も徹夜を強いられたことを覚えています。

そんな上司があるとき海外出張に出かけました。鬼の居ぬ間に洗濯です。「洗濯」の最中、私は「鬼上司」が出張報告をその日のうちに現地からFAXで送ってきていることを知りました。

毎日彼の上司宛に届き、それが私たちにも回覧されてきたのです。これは素晴らしい!と私は感銘しました。

出張報告といえば帰ってきてから「まとめてするもの」という固定観念が。まして出張先が海外であればなおさらです。

今のようにネットもスマホもない時代でしたので、FAXとはいえ「海外から毎日タイムリーに報告が来る」というこのスピード感を、私はとてつもなく「はやい!」と感じたのです。

私はその後まもなく転職。新天地では国際事業部門の配属に。諸先輩方の海外出張は多く、やはり皆さん帰国後に報告書を提出しているご様子。

そこで私は、自分が出張した際、「鬼上司」から学んだあの方法を試してみました。毎晩ホテルの部屋で日報をまとめてフロントに持ち込みFAX送信です。

帰国したら上司に絶賛されました。しかも、「改めて報告書をまとめる必要はないよ」と。私の送ったFAXは既に関係者に回覧され押印されたものが机の上に置かれていました。

「鬼上司」には今も心から感謝しています。残念ながら10年ほど前、鬼籍に入ったと風の便りに聞きました。