「てにをは」が大事

「てにをは」が大事

日本語で話すなら「てにをは」は大切。たとえば、「この本がいい」と「この本でいい」ではニュアンスがずいぶん違いますから。

私がかつて勤めた会社に一風変わった部長がいました。彼は海外事業を統括する立場でしたので、英語でスピーチをする機会も多い。

そのスピーチ原稿は、まずご本人が日本語で作成。出来上がると、英語に堪能な部下を自分の机の横に座らせて、英訳作成の打合せをはじめます。

席が近い私たちにも、そこでの会話が聞こえる。「ここは、『日本では』がいいかなぁ、それとも『日本には』”かなぁ…」などと、英語に堪能な分、日本語には弱点のある部下にアドバイスを求めています。

どちらにせよ、英訳すれば”in Japan”なのだから、「では」でも「には」でも、どっちでもいいじゃん、と、みんなは思っていますが、部長はこだわる。

そんな打合せがひとしきりすると、部下はようやく解放され、英訳にとりかかります。その間、部長は赤ペンを入れた日本語原稿を何度も読み直している。

部長も英語はかなり出来る人なのに、どうして日本語にこだわるのか?不思議です。

しばらくすると、「○○さん、ちょっと来てくれるかな」と部長。英訳に没頭していた部下は手を止め再び机の横へ。2度目の打ち合わせ開始です。

「さっき、ここは『日本では』にするといったけど、やっぱり『日本には』にしてくれるかな。それから、ここの『でも』は『しかし』にかえてくれ・・・」

「一旦、全部の英訳をつくりますので、その英文をベースに直接赤を入れて下さい」と言えないその部下は、その後も自分と部長の席を何度も行ったり来たりしていました。