肉眼で見てあげてください!

肉眼で見てあげてください!

学芸会や運動会、わが子の姿をカメラやビデオに収めたい。会場に来られないおじいちゃんやおばあちゃんにも見せてあげたい。親なら誰しもそう思います。

私たち家族がロンドンに駐在していた頃のこと。長男は日本人幼稚園に通わせていました。毎年運動会やクリスマス会が催されますが、その度にお父さんたちは撮影に大忙しです。

15年ほど前の話ですから、スマホはありませんが、デジカメやビデオレコーダーが活躍していました。

特に年末のクリスマス会では子供たちが演劇や合奏を披露するので、会場の最後列に自分のカメラで撮影する保護者向けに専用スペースが設けられるほど。

そのスペースには毎回たくさんの三脚が立ち、ファインダーをのぞくお父さんたちでいっぱいです。日本にいる祖父母へ伝えるためにも、いい絵が撮りたい!その気持ちは私にもよくわかりました。

しかし、自分は一度も専用スペースを利用しませんでした。一番後ろで撮影に専念するとなると、わが子の姿はすべて「レンズ越し」に見ることになる。それが嫌だったからです。

祖父母へは一時帰国の際に、座席からとった数枚の写真を見せる程度。伝えきれない部分は言葉で補いました。

わが子(祖父母にとっては孫)の映像が多ければ多いほど、それを伝えるときに言葉は少なくて済みます。見ればわかるからです。

でも、映像が少ないと、その時の様子を一生懸命伝えようと「熱く」言葉で語ることになるわけです。ただ、そのほうが、祖父母にとっても想像力を発揮する余地があって楽しいのではないでしょうか。

ある年のクリスマス会でのこと。園長先生の挨拶に続いて、主任の先生からお話がありました。

プログラムの説明に続いて、お手洗いはどこにあるとか、公演中は携帯電話のスイッチを切ってくださいといったといった案内です。

それから、例の撮影スペースについての説明。もし、座席から撮影していただいても構いませんが、くれぐれも周囲の方のご迷惑にならない範囲でお願いしますと。

そして最後に一言「お子さんの姿を、ぜひ肉眼でご覧いただきたいと思っています。」

私はそのとき「よく言ってくれた!」と大いに感銘を受けたことを今でもよく覚えています。「肉眼で見る」チャンスはたったの1回しかありませんから。

わが子の姿をデジタルデータに変換して保存することも大切ですが、肉眼で見て脳裏に刻むことはもっと大切です。これは何も学芸会に限ったことではありません。日々の暮らしで見せる子の姿。そのひとコマひとコマについても同じことが言えそうです。

ちなみに、ビデオは毎回幼稚園のほうで写真屋さんに依頼して撮影してくれたものを、後日販売してくれました。ということで、ウチではいつもライブは肉眼で見て、保存用には幼稚園で準備してくれたビデオを購入していました。