物持ちがいい(2)

物持ちがいい(2)

昨日の記事「物持ちがいい(1)」でお伝えした、財布のお話です。

この財布はドイツに赴任してすぐに出合いました。ゴールドファイルというご当地の皮革製品ブランドで、職人気質のドイツらしい造りとシンプルなデザインに惹かれました。価格もリーズナブルです。

さて、この財布には忘れられないエピソードがあります。それはある年の夏休み、家族でデュッセルドルフからイタリアのサルディーニャ島へ出かけたときのことです。

まだヨーロッパの通貨が各国バラバラでしたから20年以上も前のこと。ちなみにドイツは「マルク」、イタリアは「リラ」でした。

島の空港に着くと早速マルクをリラに両替です。ところが、なぜか財布が見つかりません。どこを探してもないのです。

これはきっと、飛行機の機内に忘れたか、あるいは両替所にくるまでの間にスリにあったに違いない。

そこで、まずは航空会社のカウンターに行って機内に落とし物はなかったか確認するも、何もなかったとの回答。

しかたなく空港内の警察に被害届を出しに。「たぶん、空港内ですられたと思う。財布の形状は…」と必死に説明するも、内心「見つからないだろうなぁ」と半ば諦めていました。

幸い妻の財布は無事でしたので、まずはホテルへいって気持ちを落ち着かせることに。

チェックインを終えて部屋のソファに沈み込み、あらためて記憶の糸をたどってみるのですが、どうにも思いあたる節がありません。

それから30分くらい経過したでしょうか、ついに思い出しました。「出発時の手荷物検査かも!」

金属探知機のゲートを通るとき、ポケットのカギや硬貨などは反応する場合があるので、取り出してゲートの横にある台に置きます。

ゲートをくぐったら、後ろを振り返って自分が台に載せたものをピックアップします。たぶん、それをうっかり忘れて台にのせたまま来てしまったのです。

すぐにホテルのフロントへ行って、デュッセルドルフの空港に電話をつないでもらいました。

「そちらに財布の落とし物が届いていませんか?」すると交換台の人が担当部署に回してくれました。

すごく訛りの強い英語で「あなたはミスター神木ですか?運転免許書が入っていたので、こちらから、あなたに連絡しようと思っていました。財布を手荷物検査のところにお忘れですよ!」

私にとって「神の声」でした。飛び上がりたいほど嬉しかった。お陰様で休暇をゆっくり過ごすことができたというわけです。

デュッセルドルフの空港で保管手数料を5マルク支払って、あの財布が1週間ぶりに私の手元に戻って来ました。

私のうっかりミスにもかかわらず「戻って来てくれて、本当にありがとう」と財布に一礼。この素晴らしい「縁」に常々思いをはせながら、今は介護関係専用の財布として大切に使い続けています。