冒険手帳(谷口尚規/著・石川球太/画) 

冒険手帳(谷口尚規/著・石川球太/画) 

「火のおこし方から、イカダの組み方まで」という副題がついた本書は少年時代の私にとってはバイブル的な存在だった。

もし、水道やガスが止まっても、山奥に一人放り出されても、この一冊があれば生き延びられると信じていた。石川氏による冒険心をくすぐるイラストの記憶は今も色褪せない。

長い間手元に置いておいた本なのだが、実は、転勤・転居を繰り返すなかで、いつのまにか私の本棚から消えていた。

しかし、先日、本書の復刻版があると知り即購入。文庫版でコンパクトになったが、中身は半世紀近くを経た今読み返しても瑞々しい。

「人間らしさ」とは何だろうか。ぼくは、あらゆる行動の原点に、自分自身の頭で下した判断をすえることだと考えたい。人が車を買えば自分も車を買い、ひとがボウリングをはじめれば自分もやるといった「あなたまかせ」の生き方と正反対のものである。いいかえれば、たったひとり無人島にほうり出されたとき、どこまで生きられるかということだといってもいい。

これは1972年6月10日に谷口氏が記した「まえがき」の一節。「人間らしさ」喪失への警鐘は50年も前から鳴らされていた。(光文社)