無思想の発見(養老孟司 著)

無思想の発見(養老孟司 著)

もう20年ほど前のことでしょうか、養老先生の「バカの壁」が話題になっていたのは。私もその作品を読んで以来すっかり先生のファンになりました。

その後も「死の壁」とか「ヒトの壁」など、「壁」シリーズが続々と出版されましたが、実はそちらはあまり読んでいません。

読んでいないのでわかりませんが、タイトルが「壁」で統一されていますから、きっと同じような話で、おそらく面白味を感じないだろうと勝手に思ったからです。

それよりもむしろ、「壁」がついていない作品のほうに興味が湧きました。その中でもこの「無思想の発見」は今でも時々パラパラとページをめくって読み返します。

日本人は無宗教と言われるが、それはいったいどういうことなのか。そもそも自分だって宗教は?と聞かれたら無宗教としか答えられない。それでよいのか?

私は海外で働く機会に恵まれるなかで、宗教とか思想といったものについて、日々いやでも考えさせられました。

なぜなら、ドイツやイギリスはもちろん、韓国で暮らしていた時でさえも、社会と宗教が密接に結びついていると肌で感じたからです。でも、日本ではそのような感覚を持ったことがない。

初詣に出かけたり冠婚葬祭に参列したり。それは「宗教」を装った形式らしきものに沿って行われるけれども、日本の社会に「根付いている」といった感覚はありません。

ドイツでいえばキリスト教がまるで通奏低音のように人々の暮らしを貫いているように感じます。しかし、日本ではそれが無いのです。

養老先生はこの本で「思想がない」というのもひとつの思想であると説きます。そして、日本に特有の「世間」という概念に絡めながら論理が展開してゆきます。

私もまだ自分自身の思想や宗教について言葉に出来るほど考え抜いてはいませんが、この本は今後の思索への良き道標になりました。(ちくま新書)