終わった人(内館牧子 著)

終わった人(内館牧子 著)

今から8年ほど前の話題作。私もこの衝撃的なタイトルはよく覚えている。大手銀行を定年退職した男の悲哀を女流作家が描く。ただ、当時の私にとって定年はまだ他人事だったので、読まずじまい。

先月のこと。たまたま雑誌で内館氏と古館伊知郎氏の対談で本著の話を読む。定年が自分事になっていた私は『終わった人』を無性に読みたくなった。

ちなみに、本著は「高齢者小説4部作(下記)」の初作。そう言えば『今度生まれたら』はドラマ化されたものを最近テレビで見たばかりだ。

2015年 終わった人

2018年 すぐ死ぬんだから

2020年 今度生まれたら

2022年 老害の人

話を『終わった人』に戻そう。

「定年って生前葬だな。」本著の書き出しの一文だ。これほど的確な表現があるだろうか!

男は「次の居場所」を探しもとめて逡巡、葛藤する。捨てきれないプライド…。私自身が企業を退職したときに体感した心境と重なる。

著者の「女性目線」を感じないのは、相当な取材の賜物か。早々と生きがいを見つけ、自分の道を活き活きと進む妻とのコントラストも鮮やか。時間を忘れて一気に読んだ。(講談社文庫)