危機の二十年 (E.H.カー 著)

危機の二十年 (E.H.カー 著)

今回のウクライナ危機。まさか21世紀のいま、まるで第二次世界大戦当時の地上戦のような光景を見ることになるとは思いませんでした。

人類は凄惨極まる「戦争」を、それも世界大戦と呼ばれる規模の争いを20世紀に2度も経験し、同じ過ちを決して繰り返すまいと大変な努力をしてきたはずなのに。

状況はもはや第三次世界大戦の様相を呈しており、やはり「歴史は繰り返す」のかと悲しい気持ちでいっぱいになります。人類はあの苦い歴史に学ぶことができなかったのか?

「危機の二十年」は政治学者であり外交官でもあった著者の、第一次世界大戦と第二次世界大戦の「戦間期」の研究。つまり1919~1939の英語圏諸国の国際政治に関する考察です。(第1版は第二次世界大戦勃発直後の1939年9月刊行)

確かに、世界は第一次大戦終結後に国際連盟の設置などを通じて、戦争を二度と起こさないための努力を積み上げてきました。

私もこのことは学校で習いましたし、本著でもユートピアニズム(理想主義)とリアリズム(現実主義)の対立という構図の中で詳細に描かれています。つまり、戦勝国である連合国は戦争のない理想主義を掲げて国際政治を主導したということです。

しかし、結局その理念は衰退し、更には全体主義の台頭を招き、世界は第二次大戦へと突き進んでしまいました。なぜか?私は本書を読み、次のことに気付かされました。

戦勝国から見れば、「戦争のない世界」を実現することは「これからも自国の権益を維持できる世界」を意味するけれど、敗戦国から見ればほぼ未来永劫「弱国」の立場に留まることを意味するのだと。

これは「目からウロコ」でした。今、この瞬間に人類が「戦争」という手段を放棄するということは、「弱国」の台頭を完全に封じ込めることになるわけで、現状に満足していない国家(=弱国)が手放しで歓迎するはずはありません。

やはり、戦争のない世界は、人類が営みを続ける限り実現不可能という結論にならざるを得ない。本書を読んで、文章の難しさもさることながら、国際政治の難しさを改めて思い知らされました。(岩波文庫)