ノーベル賞の光と陰(「科学朝日」編)

ノーベル賞の光と陰(「科学朝日」編)

今年もノーベル賞受賞者の発表が終わり、日本人では真鍋淑郎・米プリンストン大学上席研究員に物理学賞の授与が決まりました。

自然科学系での日本人受賞者はこれまでにアメリカ国籍を取得した人も含め22人が受賞。真鍋氏は23人目ということで、とても誇らしい気持ちになります。

「平和賞」「文学賞」でも3人の日本人が受賞していますが、「文学賞」でいつも話題になるのが村上春樹氏です。「今年こそ受賞するのではないか?」と言われ続けて、もうずいぶん経つのでは?残念ながら今年も受賞には至りませんでした。

荻窪駅の西口を出て白山通り商店街を抜けたところに「6次元」というブックカフェがあります。村上春樹関連本を執筆する方が店主とのことで「ハルキスト」の“聖地”とも呼ばれているそうです。

ノーベル文学賞発表の際にはいつもテレビ中継のカメラが入り、そこに集まって受賞を願うファンの皆さんの様子が報道されていました。

最近この中継を見なくなったなぁと思い、先日、カフェのあった場所を訪れたところ、既にお店の看板はなく、窓越しにたくさんの本が積み上げられているのが見えるだけでした。コロナ禍の影響もあって閉店されたのかもしれません。

さて、この本は学生時代に、ある教授から勧められて読んだものです。自分もまだ若かったのでノーベル賞を夢みていたこともあり、興味をそそられました。40年も前に出版されたものです。

タイトルから想像がつくと思いますが、そこには いくら実力があり、実績を出しても、日の目を見ない優秀な学者がたくさんいるという「事実」が書かれています。

時代背景や運といった半ば不可抗力的なものだけでなく、関係者の思惑や欲望といった人間臭いドラマがあるというわけです。

なかでも「だれがビタミンを発見したのか」というタイトルで鈴木梅太郎博士について書かれたものは、農芸化学を学ぶ身としてはとても印象深い内容でした。

この本を読むまではノーベル賞というものは「人類の英知が集い、フェアな選考を経た、完全無欠の栄誉」だと思い込んでいた若かりし頃の私に、光あるところには必ず陰があるということを教えてくれた一冊です。

何年か後に、この本の続編が出ることを密かに期待しています。例えば、歌手として受賞したボブ・ディランさんの件などを取りあげてくれたら面白そう。村上春樹氏に関するエピソードにも期待したいところです。