学生時代に私はこの本に出合いました。当時たいへん話題になった本で、先に読み終えていた母が「最後に、とても良いことが書かれているよ」と絶賛していたのを覚えています。
著者はカナダ人の実業家キングスレイ・ウォード氏。病気で死に直面した同氏が、生きているうちに自分の経験から学んだ人生の知恵やビジネスのノウハウを息子に伝えたいという思いで書いた手紙がこの本です。
どの手紙にも、息子への愛情と、ビジネスマンとしての熱い想いがこめられています。人生を歩むうえで参考になることが、著者の実体験をベースに多く書かれている。
それでいて、押しつけがましさや、いわゆる「上から目線」は微塵も感じさせません。読んでいてとても心地よく、爽やかな気持ちになります。
あれから30年以上の時を経て、私も息子を持つ父になったわけですが、 ウォード氏 のように立派な人生訓を息子に伝えられるかと問われたら、全く自信がありません。
そこで、私は「手抜き」をすることにしました。自分で手紙を書かずに、この本をそのまま息子に贈呈。もちろん、100%共感できる内容ですので、それで良しとしました。
時代背景や変化のスピードが、この本が書かれた当時とは比べ物になりませんので、果たして有意義なものになるかどうか?一抹の不安はありますが、そもそも人間の本質的な部分というのは、たかだか数十年で変わるものではないでしょう。
息子は現在 米国に留学し会計学を学んでいます。中高生の頃は大の車好きで「日本のフェラーリを作りたい!」と熱く語っていた彼が、いまはCPAを目指している。これは実に意外な展開でした。
本を手渡したのは渡米の直前だったと思いますので、もしかしたらこの本を読み、何らかの影響を受けたのかもしれませんね。
さて、母が言っていた「最後にかかれているとても良いこと」とは、古代ギリシヤの哲学者エピクテトスの言葉でした。今でも私の心に深く刻まれています。
それから、もうひとつ。この本の翻訳は城山三郎氏です。私はその後、社会に出てからの一時期、城山さんの作品に夢中になることに。こちらも、その時には全く予想しなかった展開でした。(新潮社)