今から30年も前のこと。職場で隣のシマに面白い次長がいた。仕事が出来た人だったが「今は昇進も出世も捨てて、人生を楽しむことに全力投球している」定年間近のTさんだ。
恒例のゴルフコンペを仕切ったり、船をチャーターし同僚や若手を釣りに連れ出したり。ゴルフや釣り以外の趣味も多く、仕事より遊び。そんな彼に眉を顰める社員も多かったが、逆に慕う社員も多かった。
そんなTさんが定年退職され数年が経ったある日。私は会社の後輩から「Tさんが随分前に亡くなっていた」という話を聞いた。退職後は会社関係者とは一切コンタクトを断っていたので「亡くなったことを(会社関係者は)誰も知らなかった」と。
しかも「自分が旅立っても会社の関係者には知らせないで欲しい」と家族に言い残していたそうだ。その後輩はたまたま別ルートで情報を得たそうだが本当に驚いたと言う。
当時の私も意外に思った。「生え抜き」で定年まで務め上げ、プライベートでも会社の仲間とあんなに楽しそうに過ごしていたのに…
しかし、この歳になってTさんの気持ちがわかるような気がする。「会社」は今の自分とは関係ない「セミの抜け殻」みたいなものだから。