他人の足

他人の足

月曜日の夕刻、仕事を終えて帰りの電車に乗る。職場から駅まで徒歩2分、次の電車は退勤時刻のちょうど2分後。走ればギリギリ乗れる。

それを逃すと次は12分後だから、10分待たなければならない。この僅か10分をセーブしようと、いつも駅まで駆け足。息を切らしてホームに着くと数秒後に電車が来る。

その日も無事いつもの電車を逃さず、いつもの時刻に荻窪駅1番線ホームに降り立った。先頭車両に乗るので、降りたらすぐに西口階段だ。

その階段から初老の男性がものすごい形相で駆け下りて来た。駆け込み乗車。危ないなぁと思った次の瞬間、彼の足がもつれはじめ、まるで空中遊泳するかのような格好に。

ご本人の気持ちに、足が全くついてきていないのは明らかで、結局、駆け下りた勢いそのままに、彼はホームベースではなく、駅のホームめがけてヘッドスライディング。

「明日は我が身」である。いい歳をして、わずかな時間を惜しみ、より長い時間(=未来)を棒に振っては本末転倒。「他山の石」ならぬ「他人の足」だった。