幼い頃よく父と地下鉄丸の内線に乗った。週末に場外馬券売場に行く父についていくのだ。行先は後楽園駅か新宿三丁目駅。
こちらの目当てはもちろん馬券ではなく地下鉄に乗ること。特に丸の内線は地上区間がある。地上を走る地下鉄に乗っている自分。これは子供心にもかなりエキサイティングだった。
当時どこに住んでいて、どんなルートで行ったのかは全く記憶にないが、まだ冷房がなく、窓全開の騒々しい車内の光景はおぼろげながら覚えている。
先週、湯島天神を参拝した帰り道。お茶の水駅近くの聖橋まで来ると、橋上でカメラやスマホをかまえる人々が多くいた。
なるほど、神田川にかかるこの橋から、この川を渡るために地上に出てくる丸の内線を見下ろせるのだ。まもなく電車が通るのだろう。
「JRとも隣接しているし、きっと、鉄道オタクには面白いんだよ」という女性の声が、後ろを通り過ぎた。せっかくだからと、私も電車が現れるのを待つ。
間もなく、真っ赤な車両がトンネルから顔を出し、ゆっくりと長く伸びてゆく。その姿は地中から這い出した「みみず」のように見えた。