ドイツ駐在時代、同じ職場にAさんという現地採用でドイツ語が堪能な日本人女性がいました。
仕事面ではドイツ人スタッフとの橋渡し役として、生活面では役所手続き、郵便の出し方、公共の交通機関の利用方法等々、私は彼女にいろいろと助けていただきました。
ある日のこと、Aさんは路面電車で通勤していたのですが「本当によく電車が遅れるのですよ…」と憤慨しています。今朝もそのせいでひどい目にあったと。
そこで私が「電車が来ないし、案内アナウンスなどもないですからイライラしますよね。」と言ったところ…
「ついにイライラしないですむ方法を見つけたんですよ!実は腕時計を買い替えました。文字盤がなくて小さいものに」とAさん。
なるほど!私は大いに感心するとともに、思わず吹き出してしまいました。
文字盤がなければ1分1秒まで厳密な時刻がわかりません。例えば32分発の電車が2分遅れて34分に来たとしても、時計の長針が32分をさしているのか34分をさしているのかは判然としない。だから、定刻か遅延かはっきりわからずに済むというわけです。
そっちが「アバウト」なら、こっちも「アバウト」で対するという斬新な発想。このことは、どうにもならない状況におかれたら「相手に期待せず、まず自分が変わってみるのも一考の価値あり」という気づきを私に与えてくれたのです。
Aさんにはドイツ生活のコツのみならず、貴重な人生訓も教えていただいたというわけです。