いまからちょうど31年前の冬。転職の合間、うまい具合に時間を捻出できた私は初めての欧州旅行に出かけました。
単身ロンドンに渡り、そこから出発する現地の長距離バスツアーに参加。陸路でドイツやフランスなどを3週間ほどかけて周遊。日本人は私一人。多くは南アや豪州など夏休みを利用して南半球からやってきた学生達でした。
ツアー3日目。その日はオランダのアムステルダム泊です。夕食後に気の合う仲間の男性ら3人で夜の街にくり出しました。
たくさんの観光客が行き交う繁華街をぶらぶらしていると、前方から背の高い黒人の2人組が近づいてきて私たちを呼び止めました。
なんとなく風俗店の客引きのような感じでいやな予感がします。そのうちこちらの腕を軽くポンと叩いたり肩を組んできたり、馴れ馴れしく絡んできました。
適当にあしらいながらなんとか振切りに成功。ところが「やっといなくなった」と安堵したのもつかの間。私のポケットにあるはずの財布が無くなっていました。
黒人たちの姿は既に雑踏の中に消え、私は仲間に「財布を盗まれた!」と告げることしかできませんでした。幸い仲間には被害なし。私たちは被害届を出しに警察に向かいました。
生まれて初めてスリというものに遭った私は、その悔しさもさることながら、彼らの巧みなテクニックにただただ驚くばかり。
何度思い返してもどの瞬間にとられたのかがわからないのです。彼らが私につきまとっていたのは時間にしてわずか20秒程度。しかもズボンの前ポケットから…。
とんでもないツアーの幕開けになりましたが、仲間たちがカンパを募ってくれたり、クレジットカード会社にカードを緊急再発行してもらったりで、なんとか無事旅程を終えることはできました。
この事件から17年後、今度はドイツで置き引きの被害者になってしまった私…。そのお話はまたあらためて。