落とし物 「拾う責任 返す責任」

落とし物 「拾う責任 返す責任」

昨朝(きのう)のことです。私は駅の改札を抜け、地下鉄に乗るため階段を下っていました。コロナ禍に加え、お盆休みをとっている方も多いのでしょう、人出はまばらです。

私の前を行くのは女性が1人だけ、リュックサックに括り付けたパスケースが、階段を下るリズムに合わせて、まるで馬の尻尾のように右に左にゆれています。

すると次の瞬間、尻尾の先からカードが1枚、勢いよく飛び出して落ちました。彼女は気づかないまま進みます。PASMOかSUICAか、階段の上で裏返しになっています。

私は身をかがめて拾いあげると、急ぎ足で追いかけ、「落ちましたよ」といって手渡しました。「あっ ありがとうございます!」久しぶりに人のお役に立てて気分爽快。

落とし物といえば、いつも思い出すことがあります。それは、私がアイススケート場で車のキーを紛失した時のこと。もう30年以上も前の話です。

きっと氷上で転んだ時にポケットから落ちたことに気付かなかったのでしょうね。管理室にいって「車のキーを落としちゃったみたいなのですが、もしかして、こちらに届いていませんか?」と尋ねました。

すると、係員の男性は「届いている・いない」について一切ふれず、不機嫌そうな表情で「どんな、キーですか」「車のメーカーは」「キーホルダーか何かついていますか?」と矢継ぎ早に聞いてきます。

焦っていた私は、届いているの?いないの?まずはそれを教えてくれよ!と思いつつも、その質問に少しイライラしながら回答し終えました。すると、彼は急に満面の笑みを浮かべ「はい、どうぞ!」と私のキーを返してくれました。

まだまだ若輩者だった私は、その時の安堵感もさることながら、彼が「本人かどうか確認する」という責任ある行動をとっていたことに気付き、とても感心したのです。きっと自分が彼の立場だったら、何も確かめずに「あぁ 届いていますよ」といって手渡してしまったのではないかと…。

現場に居合わせた場合は、本人確認をするまでもありません。でも、誰かが届けてくれたモノを預かっている場合は、訪ねてきた人物が落とし物の持ち主かどうかを確かめずに手渡したら、大変なことになる可能性があります。

3年ほど前には、地下鉄の車内で携帯電話を落としたことがあります。後ろのポケットから座席の上に滑り落ちていたようです。落とし物センターに問い合わせたところ、幸い「それらしいものが届いていますよ」とのこと。

SIMカードの登録番号か何かを提示したと思いますが、その時もきちんと本人確認のプロセスを経て無事返却されました。東京メトロの職員の方、その節は大変お世話になり、ありがとうございました。

日本では落とし物や忘れ物がもどってくる確率が、諸外国に比べて格段に高い。民度の高い素晴らしい国です、誇りに思います。それもこれも、こうした多くの人々の善意と責任ある行動に支えられているのですね。