この作品に出合ったのは、海外駐在を終え日本に本帰国して間もない頃でしたから、もう10年以上まえのことになります。
原作を先に読んだか、NHKでドラマ化された作品を先に見てから読んだか、もう忘れてしまいました。ただ、どちらも何か強く印象に残るものがあったことは鮮明に覚えています。
先日、ふとこの作品のことを思い出して、本を図書館で借りてきました。どんなストーリーで何に感銘したのか、記憶を取り戻したくなったからです。
5つの短編(いずれも一話読み切り)からなる本著。目次を開くと「結婚相談所」「空を飛ぶ夢をもう一度」「キャンピングカー」「ペットロス」「トラベルヘルパー」という5つの題名が目に飛び込んできました。
それからは、まるで押し入れの奥にしまってあった昔のアルバムを見つけた時のように、私はページをめくる手が止まらなくなってしまいました。
「第1の人生」に区切りをつけ、「第2の人生」を歩み始めようとする人々の物語。どこにでもいて、ごく平凡に暮らす中高年である主人公たちが人生の折り返し地点を迎え、不安や葛藤を乗り越えながら、「現実」を受け入れてゆく。
最初に読んだときは40代でしたから、まだ「他人事」という気持ちがありましたが、主人公たちと同年代となった今再読しますと、まさに「自分事」であり、ストーリーや文章が実感を伴って心にささってきます。
そういえば、私がいまこうして「ブログ」をはじめることになったのも、もとはと言えば「ペットロス」に登場する「定年後に部屋にこもってブログを書いてばかりいる男」に、なぜか共感をおぼえたのが切っ掛けでした。
50代という人生の大きな節目にどう向き合ってゆけばよいのか。本著は温かく優しい目線でその答えを示唆してくれます。(幻冬舎)