償いは済んでいる(上坂冬子 著)

償いは済んでいる(上坂冬子 著)

この作品は戦後50年という節目に出版された、「名もない戦犯とその遺族について書かれた」ノンフィクションです。

上坂氏はこれまでも戦犯として処刑された方々に関する数々の本を著し、敗戦後の日本が既に数多くの尊い命と引き換えに「戦後補償」を済ませているという事実をわかりやすく私たちに説いてこられました。

「償いは済んでいる」には「忘れられた戦犯と遺族の五十年」という副題がついています。いわゆるBC級戦犯がいかに乱暴な戦勝国の「名ばかり裁判」で罪を着せられたのか、また残された妻や子のその後の人生がいかに苦渋に満ちたものであったか…。

上坂氏による遺族の方々への丁寧な取材に裏打ちされた「真実」を読み進むほどに、何とも表しがたい残念で悔しい気持ちになります。

私は上映時間4時間半という長編映画「東京裁判」や2016年にNHKで放映されたカナダ、オランダとの国際共同制作ドラマ「東京裁判」を見て、いわゆるA級戦犯についてはある程度知っていました。

しかし、BC級については本書を読んで初めて知ることばかり。誠にお恥ずかしい話ですがその数が1061もいたという認識すらありませんでした。

上坂氏はエピローグの中で「戦後補償を論ずるなら、敗戦から講和条約締結までの間に敗戦国が戦勝国から受けた報復の事実と、いわれたとおりに日本が済ませた償いの事実を見極めてからにすべきです。」と述べています。

私も全く同感です。あの理不尽な東京裁判によってA級戦犯となった7名の命。サンフランシスコ講和条約の締結。もうこれ以上、他の国から戦争責任を問われる理由はありません。

そもそも「戦争犯罪」という「罪」は成立するものなのか。国のために戦った敗戦国の人が戦勝国に裁かれ死刑になる。むしろそうした行為のほうが「罪」ではないでしょうか。

私たちはあの戦争をどのように理解し、これから日本はどのような立ち位置で世界と伍してゆくべきかを深く考えさせられる一冊です。(講談社)