「昔はよかった」と言うけれど(大倉幸宏 著)

「昔はよかった」と言うけれど(大倉幸宏 著)

昨年10月、「いまどきの若者は…」という前に という投稿で私はこう書きました。 

歳をとると、なぜか無意識のうちに「いまどきの若者は…」とか「いまの世の中は…」という目で世の中を見てしまいがちです。「昔はよかった、昔のほうが優れていた」と。でも、それはやはり偏見です。

「それはやはり偏見」であるという証拠を集めてくれたのがこの本。著者は「日本人の道徳心は低下した」というのは果たして本当だろうか?という疑問を出発点に執筆をはじめたそうです。

ここで言う「昔」とは戦前を指していますが、その頃もモラルの低い人々が社会の迷惑になる行動をとっていた事実。

児童虐待に食品偽装、教師による性犯罪といった重いものから、不正乗車、ゴミのポイ捨て、電車などで弱者に席を譲らないといったマナーの悪化にいたるまで、どれもみな昔からあったことをこの本は教えてくれます。

私は、技術が進歩し豊かな社会になりモノが行きわたるにつれて、逆に心は貧しくなり道徳心も廃頽してゆくもの、というイメージをなんとなく持っていました。

つまり、「昔のほうが経済的には貧しかったけれど、人々の心はもっと健全であり道徳心も高かった」と想像していた。しかし、この本を読むと「そんなことはない」とわかります。

「いまどきの若者は…」という前にでは、具合の悪くなった妹に席を譲ってくれない当時の若者たちの事も書きました。同じようなことが、もうひと世代遡ったところでも起きていたということなのですから。

では、そうすればよいのか?いつの時代も人間は本質的に変わらない、だから仕方がないと諦観するしかないのかもしれません。あるいは、自分はそんな行動をとらないように心がけるくらいならできるでしょうか…。

確かにむずかしいけれど、少なくとも過去を過度に美化することには慎重になるべき。昔の記憶や認識に対して常に懐疑的であるべき。まずはそこからはじめようと思うのです。(新評論)