驕れる白人と闘うための日本近代史(松原久子 著)

驕れる白人と闘うための日本近代史(松原久子 著)

日本人である著者はこの本をドイツ語で執筆し1989年にドイツで刊行。そのセンセーショナルなタイトルからも想像できますが、大きな物議を醸したそうです。

私はドイツ駐在時代に「原著を」と言いたいところですが語学力が足らず、田中敏氏による日本語訳を読みました。本の背表紙には次のように書かれています。

「我々の歴史こそ世界史であり、あらゆる民族は我々の文明の恩恵に浴することで後進性から救われてきた」―そんな欧米人の歴史観・世界観に対し、日本近代史に新たな角度から光を当てることで真っ向から闘いを挑む。

私は欧州の人々とのご縁があるまでは、「(日本とはちがって)ヨーロッパは偉大なる歴史と文化の地」というイメージを持っていました。

日本人である私たちは彼らの前にひれ伏すような心理的コンプレックスが、あらかじめインストールされているような感じです。

思い起こせば、学校で学んだ世界の歴史は欧米中心の視点で描かれており、私たちはそれを疑いもせず鵜呑みにしてきましたから無理もありません。

しかし、ドイツで暮らし その周辺国を訪れてみるにつけ、日本が劣るなどということは全くないと実感しました。確かに歴史や文化がありますが、日本にも立派なものがあります。

例えば、ヨーロッパの町には古い建物がたくさん残っているので勘違いしがちですが、それは日本ほどに地震は起きないですし、石造りのために火災リスクが少ないから残っているだけのこと。

あの有名なドイツの磁器「マイセン」だって、中国の磁器や日本の伊万里などに憧れたヨーロッパの人々が、何百年もかけて研究した結果ようやく自国で製作できるようになったものです。

著者も序章でこう言っています。「ヨーロッパ人が他民族、多文化圏から何か役立つものを取り入れれば、彼らは自分たちがいかに文化的に開かれ、受容能力があるかを誇らしげに語る。」

しかし、同じことを日本人あるいは非ヨーロッパ人がやると「猿真似」だと激しく批判する。

要するに歪んだ歴史認識からくる彼らの「上から目線」に対して、私たちは卑屈になる必要など全くないということです。

日本にもヨーロッパに負けないくらい世界に誇れる素晴らしい歴史や文化があるのです。私たちは胸を張って堂々と世界を渡り歩いてゆけばよい。その時に本書は強い味方になると思います。(文春文庫)