資本主義と不自由(水野和夫 著)

資本主義と不自由(水野和夫 著)

今年8月の小欄で『人新世の「資本論」(斎藤幸平 著)』を紹介した際に、私が最初に「脱成長」の思想に触れたのは水野氏の『資本主義の終焉と歴史の危機』だったと述べた。

水野氏の本を読んだのはあの時以来。本著は2014年9月から15年1月にかけて行われた東洋英和女学院大学大学院の講義がベースとあるが、今読んでも新鮮だ。

私が経験してきたビジネスの世界は「成長」が絶対命令。経営計画を立てる際にまず議論するのは本年の着地見通しを踏まえた次年度の伸長率。5%未満は言語道断という空気だった。

いざ次年度が始まれば、計画比と前年比が問われ続ける。そんな繰り返しの日々を送る中で、著者のような「行き過ぎた資本主義に警鐘を鳴らす」識者の主張は一筋の希望でもあった。

特に同氏は常に人類史という長期的なスパンに立脚した視点で現状を捉え、将来を見据える。このスタイルが素晴らしい。

資本主義という難解なテーマを扱いながらも、平易な言い回しと巧みな比喩で読者を飽きさせない。特に「帝国化」や「グローバリズム」の本質を洞察した6~7章は圧巻だ。(河出文庫)