喪中ハガキが届いた。中学時代の恩師が亡くなったと知る。数学の先生だったが、文芸にも造詣が深くご自身で詩を創作される。そのレベルは趣味の域を越えており、日本経済新聞の紙面を飾ったこともある。
授業中の語りがリズミカルでテンポがよく、我々生徒を飽きさせなかったのは、そんな詩歌に精通されていた先生ならではのことだったのかもしれないと今にして思う。
「大人になったらいくらでも遊べるから、いまのうちに勉強しておけ」とよく言われた。自分も大人になってから子供たちに同じことを言ってきた。
私が卒業して間もなく、先生は別の中学校に転勤。そこでの「いじめの問題」でマスコミ沙汰になり教壇を追われた。
当時大学生だった私は、したり顔のコメンテーターが好き勝手に先生のことをこき下ろすテレビ映像に憤りを抑えきれずテレビのスイッチを叩き切り、一緒に見ていた母を驚かせた。
毎年いただく年賀状にはご自身の詩。最後になってしまった賀状をあらためて引き出しの奥から取り出して見る。
「わたしは夢を見る」ではじまるその詩は、「93歳になった 百歳まで生きたいが 夢の夢」で締めくくられていた。享年94歳。ご冥福をお祈り申し上げます。