当初、防大の生活は戸惑いの連続でした。とにかく何でもかんでもルールが決まっていますので、それに慣れるまでがひと苦労です。
服装や所持品、敬礼、整列、点呼、報告などの要領は当然のこと、ベッドをあげた時の毛布の畳み方、掃除の仕方、食器の持ち方、食堂のテーブルの拭き方、入浴時に脱いだ作業服のたたみかた、机の本の置き方…。
1年生の間は、これがちゃんと守られているかどうか上級生たちに四六時中チェックされ、出来ていない場合は、説教されて腕立て伏せ。毛布などは畳み方があまりに酷い場合は、見せしめに窓から外に投げ捨てられていることもあります。
しかし、こうした事も慣れてしまえばなんてことはない。むしろ、すべて型がきまっているほうが、悩んだり迷ったりしないですみますから、楽でいいとさえ思えてきます。
組織が命令系統に従って一糸乱れぬ行動をとるということが、有事を想定した軍隊組織では必要です。個人の判断や主観はむしろ邪魔になります。
防大は広義の軍隊組織ですから、そうしたことが万事ルール化されていることの背景には当然あるのだと思います。
ただ、ときどき奇妙なチェックを受けることもあります。一番印象的だったのはトイレでの出来事。
私は小便器に向かって立ち、ややうつむき加減で用と足していたところ、たまたま通りかかった4年生に「視線を上げよ!」と注意されました。
その先輩は私をからかっているのではなく真剣に注意しているのです。防大生たるもの、どんな時でも凛々しくあれということだったのでしょう。(つづく)