二度目の海外出張先はフィリピン。カリフォルニアの米国工場の立ち上げで初めて仕事で海外に出て〈ロスバノス(Los Banos)にて(1)参照〉から、半年後のことです。
米国から戻ってまもなく、私は研究所から本社に異動となり果汁原料の調達担当に。世界中から様々なルートでオレンジやグレープといった定番アイテムから、ローズヒップ、アセロラといった変わり種まで幅広く扱っていました。
ちょうど研究所で新たに発売予定のパイナップルジュースの処方開発を担当していたのですが、今度はそのための果汁原料を調達するということになったわけで、とにかくパインづくしの年でした。
マニラに飛んだのはその年も押しせまった12月のこと。商流に絡む商社と農協のメンバーも同行し計4名、4日間の行程でパイナップッル農場の見学と商談に赴きました。
バナナやパインと言えばDOLEですね。私たちが訪問したのもミンダナオ島にあるDOLEの農場です。
マニラから小型セスナ機に乗り換えて1時間半ほど飛んだでしょうか。あれは農場の一角だったのか、小さな掘っ立て小屋が一軒ぽつんと立っているだけの広い空き地に着陸。
飛行機の周りでは小さな子供たちが走り回って遊んでいます。東京から来た私にとってはまるでタイムスリップしたかのよう。さっそく真っ黒に日焼けした陽気なおじさんがパイナップル農場へ案内してくれました。
見渡す限りパイナップル。視界にはパイナップルと青空しかありません。収穫される前のパイナップル、つまり「生きている」パイナップルを見たのは初めて。私の心は興奮に沸き返っていました。
すると突然おじさんがポケットからナイフを取り出して果実をザクっと切りとり「食べてごらん」と。これが完熟パインの味かぁ…こんなにも甘く、香りが強いとは。
今となっては商談のことは何も覚えていないのですが、あの時のパイナップルの味だけは、しっかり私の脳に刻み込まれています。