防大卒業後の進路は任官拒否をしない限り、幹部候補生学校に進学、そこから自衛隊幹部として部隊に配属され、概ね2年毎に配置転換と昇進を繰り返してゆきます。
既に敷かれたレールの上を進んでゆく。それはそれで人生の一つの選択であり、良し悪しの問題ではありません。
しかし、当時19歳の私にとって、それは自分がもしかしたら持っているかもしれない他のすべての可能性を自ら封じてしまうように思えたのです。
退校の意志を表明してからは、指導官や先輩方と何度も面談しました。全員が引き留めてくれましたが、引き留められると不思議なもので逆に自分の決意は固くなっていきました。
ところで、一連の面談のなかで小隊指導官から「日本はなぜこんなに治安が良いのかわかるか?」と問われたことがあります。私が回答に窮していたところ「銃を持っているのが警察だけだからだよ」と。
「自衛隊は警察と同じ。ただ銃口の向きが違うだけだ。警察の銃口は国内にむいているけど、自衛隊はそれが国外に向いているというだけのことだ。」
この言葉を聞いた時、私の中で自衛隊に対して抱いていた心のモヤモヤが一気に解消し、晴ればれとした気持ちになりました。
防大で半年間過ごしたおかげで、私は自衛隊が好きになりました。これは洗脳されたわけでも何でもない。自衛隊で働く志高き人々に触れ、またそこを目指す同年代の学生諸氏と衣食住を共にした結果です。
防大の半年間は私の人生にとって、示唆と学びに満ちた、かけがえのない時間になりました。(おわり)