生き物が老いるということ(稲垣栄洋 著)

生き物が老いるということ(稲垣栄洋 著)

歳とともに「老い」を実感し、それについて考えるようになり、それに関する本に思わず手が伸びる。本著もタイトルに惹かれて思わず手が伸びた一冊だ。

2年前の小欄で『生物はなぜ死ぬのか(小林武彦)』について書いた。小林氏は「死ぬ」ことで生物は誕生し、進化し、生き残ってきたと説く。

本著で「老い」とはいったい何なのか?について稲垣氏も、「老い」は人類がいかなる環境変化にも対応し、生き残るために「獲得した」生存戦略だと説く。

「老い」と聞けば、想起されるのは「衰退」や「退化」といったイメージだが、著者の主張は真逆で、それは「発展」であり「進化」だと。

植物の専門家でもある稲垣氏は、人生の晩年をイネが米という実を結び美しく黄金色に輝く姿に重ねる。科学的な根拠を下地にしつつも表現は叙情的だ。

「私たちは、立派な老人にならなければならない。そう思えば、私たちには時間がない。若返りなどしている暇はないのだ。」

本著を締めくくるこの文章に私は心から共感した。(中公新書ラクレ)