かつて勤めていた会社の幹部研修で、講師からこの本を紹介していただきました。
その研修は選抜制で、毎月1回の週末が充てられ1泊2日の合宿形式で行われました。
約10か月間にわたって週末の休みが削られたのもきつかったのですが、それにも増してつらかったのは、毎回出される課題(宿題)でした。
個人でやるものからグループワークまでどっさり。MBAプログラムのエッセンスを凝縮したような内容なので難易度も高く、ごまかしもききません。
日々の仕事に加えて、それらを片付けるために、時間とエネルギーがかなり奪われました。
でも、それだけのことはあり、内容はとても濃く講師陣も一流。この本はファイナンスの講師から勧められたものです。
私はこの時すでに独学で日商簿記2級はなんとか取得できていましたので、ファイナンスに対する苦手意識はほとんどありませんでした。
しかし、受講者の多くは「損益計算書」とか「貸借対照表」と聞いただけで「勘弁してほししい」という感じ。
そこで講師がそんな空気を察したのでしょう、「この本は皆さんのような人にはピッタリの入門書になります、しかも薄い(内容ではなく、本の厚さのことです)」と。
本書は「経営と会計」という副題がついていますが、まさに会計が会社経営にどう活かされているのか、とてもわかりやすく書かれています。
また、「値決めは経営」といった稲盛さんの経営思想が、会計という切り口で余すところなく語られていてとても勉強になります。
会計そのものをテクニカルに学びたい方には向きませんが、会社経営にとって会計というツールがいかに重要であるか という本質的なことを学ぶことができます。
私の経験から申しますと、中小企業の会計は節税という観点が強いと思います。従って、税務会計に主眼が置かれ、経営者は「どうすれば税金を払わないで済むか」ということに気を取られるがちです。
しかし、規模が大きくなりますと節税よりも、事業損益や生産性などいわゆる管理会計の視点で経営のかじ取りをしてゆくことが必須です。
そうなった時、この本で稲盛さんが述べられているような「思想」を会計に吹き込んでゆくことになります。会計というツールを、経営者の思想に基づいて、経営に活かしてゆくことが求められるのです。
会計、帳簿付けは税理士任せといった経営者もいると思いますが、将来に向けて規模を大きくしてゆこうとお考えの経営者の方には、是非ともお勧めしたい一冊です。(日経ビジネス人文庫)