ブータンが「世界一幸せな国」として何かと話題になっていた頃だったからでしょうか。私は図書館でたまたまこの本のタイトルに目がとまり、思わず手に取りました。
心のどこかで「幸福論」を探していたところに「反・幸福論」なるタイトルが目に飛び込んできたので、意表を突かれたとでも申しましょうか。
先生は本書のあとがきでこう述べています。「『幸福』でなければならない、というこの時代の精神に多少はあらがってみたかったわけです。」と。
個人の自由や利益ばかりが声高に叫ばれ、人々は地縁、血縁といった結びつきを旧態依然のものとして壊し続けてきました。
何にも束縛されず、砂粒のようにバラバラになった個人が自由に好きなことをやって個人的な利益を追求すれば、その先に「幸福」があると信じて。
ところが、どうもそうではないらしい事に人々は薄々気づきはじめた。そこへ東日本大震災という未曽有の大惨事が襲った。
では、私たちはどうすればよいのか。この時代をどう捉え、どんな考え方を持って未来を思考していったらよいのか。
その問いに答えるためのヒントを与えてくれるのが本書だと思います。
実はこの本との出合いをきっかけに、私は佐伯先生の思想にすっかり傾倒し、片っ端から著作を読みあさることになりました。
多くの著作が新書版で出版されているので、携帯に便利なこともあって、一時期私のカバンにはいつも先生の著作が入っていました。
思想、政治、経済、国家、宗教など、いずれも抽象的なテーマでありながら文章は平易で大変わかりやすく、例示も豊富。ご一読をお勧めします。(新潮新書)