歳をとると自ずと「老い」をテーマにした本に関心が向く。本書の副題でもある「長い老後をいかに生きるか」などと、すぐに答えの出るはずもない問いを日々考えながら。
医学や科学技術の進歩、食料事情や公衆衛生の向上等々の恩恵を受け、平均寿命はどんどんのびる。一方で、ならば余生をどう過ごすべきかという悩みも出てくる。
落語で描かれるさまざまな老人たちの暮らしぶりを通じてその悩みを解決するヒントをつかもうというのが本書の試み。
つまり「人生50年時代」を生きた江戸時代の人々の「老後観」を探ってみようというのだ。
しかし、冒頭で著者自身が述べているように、当時の人々は「老後の暮らしについては、あまり考えてはいなかった」というのが実態。
なぜなら、悩む前に死んでしまう。だから心配無用なのだ。病気や事故でいつ死ぬかわからないから「皆、いまを生きるのに、必死だった」と。
いまを生きる。もしかしたら、ここに先ほどの問いに対する答えがあるのかもしれない。(平凡社新書)