物語は70代の夫婦が、知人と共に3人で島に移住し、新たに共同生活を始めるという設定。著者は私と同世代の女流作家だ。
(最近は自分が歳をとったということを意識するようになったせいか、高齢者を題材にした作品に手が伸びる。著者についても同世代か、自分より年上の人を選びがちである。)
ミステリーではないけれど、ミステリーのようなタッチでストーリーが展開する。登場人物たちの不可解な言葉や行動、複雑な心の動き。現在と過去の往来も頻繁だ。
どのジャンルにもピタッとはまらないという意味での新しさを感じる。和食ではない、洋食ともいえない、中華ともちがう、腕の確かなシェフの「創作料理」の味わいとでも言おうか。
なかなか明かされない登場人物たちの本心、真実…。読み進むほどに先が知りたくなって、ページをめくる手が止まらず、一気に読み終えた。
話の締めくくりは「介護」のある風景。私自身の経験とも重なり、余韻が心を揺さぶった。(中央公論新社)