華麗なる身のこなし

華麗なる身のこなし

最近よく新宿駅を利用します。西口のコンコースを歩くのですが、あれだけ 大勢の人々がお互いにぶつかることなく、歩いている光景は圧巻です。

「狭い日本そんなに急いでどこへ行く」という交通標語がありましたが、狭いからこそ鍛え上げられた能力なのか、日本人の人混みでの身のこなしは実に見事です。

あのコンコースはいずれの方向にも目的地になるような施設がありますから、人流が定まりにくい。スピードという点でも、速足で歩く若者やサラリーマンもいれば、大きな荷物を持ってゆっくり進む観光客もいます。

それでも、皆が巧みに相手の出かたを予測しながら、右に左に身をかわし、歩く速さも微妙に調整しながら進む。これは、なかなか高度な技術ではないでしょうか。

ところで、私はロンドン駐在時代、通勤に地下鉄を利用していましたが、基本的に駅構内はどこも一方通行。とにかくひたすら案内表示板の指示に従って歩くのみです。表示は至ってシンプルですから、私のような外国人でもまず迷うことはありません。

周りをキョロキョロすることもなく、もちろん思わぬ方向から人が来るようなこともない。つまり人流が整理されているわけで、それはそれで素晴らしいのですが、中にはそのせいで随分と遠回りをさせられていることもありました。

さて、話を日本に戻しましょう。日本では人流はあまり整理されていません。少なくともロンドンの比ではない。きっと一人ひとりの「身のこなしレベル」が高いからなのでしょう。

それは駅のコンコースのみならず、満員電車や混雑したエレベーターなどでも遺憾なく発揮されます。

これはコロナ前の話ですが、デパートのエレベーターを利用したときのこと。ほぼ満員状態のところへ、もう数人が乗るか諦めるか躊躇していると、係員の女性が「あと、半歩お進みください」と一言。

それに合わせて、人々が身体をきゅっと細くすると申しましょうか、占有しているスペースを縮めると申しましょうか…。あっという間に、数人分のスペースが生み出されました。

こうした身体の捌き方は、「狭い」という環境が日本人にもたらした一種の生物進化なのか、あるいは武道や茶道に見る美しい所作といった伝統文化のなせるわざなのか。

いずれにしても、世界でもトップレベルの実力だと思います。