会社で働いていると、「組織」とか「人間関係」といったことに振り回されます。大企業では頻繁な組織変更や、部門間の対立といった組織の論理に翻弄され、中小企業ではもう少し狭く煮詰まった人間関係みたいなものに煩わしさを感じるでしょう。
私も会社で中堅と呼ばれる歳になったころから、上司や先輩の言動に そうした「しがらみ」のようなものを直に感じる機会が増えました。
こちらが何か意見を述べても、「それは書生論だよ」とか「清濁併せ呑まなきゃ組織では生き残れない」などと役員から諭されました。
常務という高い地位まで上り詰めた人が、私たちのような担当者レベルを前に役員会の愚痴を言っている。常務でも如何ともし難いことが組織にはあるものなのだなぁと、当時は不思議な気持ちがしました。
組織をリードすべき経営陣の仕事というのは一体何なのか?そもそも、彼らをして、こんなふうに牙を抜かれたライオンのようにさせてしまう組織とは?そんな素朴な疑問を抱いていたとき、この本に出会いました。
50年以上も前に書かれたものですが、今でも十分通じる内容です。日本社会の組織構造を、インドやイギリスを鏡にして浮き彫りにしているので、とても分かりやすい。
それでいて、その優劣を論じているのではなく、それぞれの社会構造を理解するための基本的な考え方を提示してくれているのです。
日本社会の人間関係と、個人主義・契約精神の根づいた欧米とのコントラストを示し、「場」を強調し「ウチ」「ソト」を強く意識する日本社会の本質を描き出しています。
ちなみに、同作品は中根氏の代表3部作『タテ社会の人間関係』『適応の条件』『タテ社会の力学』のひとつで、いずれも新書で出版されていますので気軽に読むことができ、お勧めです。
では、この本を読んだ私は構造を理解し、何かよりよい行動につなげることができたか?
そう問われると、回答に窮してしまいますが、組織の一員として「日々遭遇する理不尽を、すこし冷静に受け止められる」ようにはなりました。(講談社現代新書)